大判例

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最高裁判所第二小法廷 平成6年(行ツ)98号 判決

名古屋市昭和区広路町字梅園一四番地

上告人

ノーリツ自転車株式会社

千種区田代町字四観音道東一一六番地一〇

上告人

桑田正次

右両名訴訟代理人弁護士

石川貞行

前川弘美

名古屋市瑞穂区瑞穂町字西藤塚一の四

被上告人

昭和税務署長 小林透逸

千種区振甫町三丁目三二番地の三

被上告人

千種税務署長 山田肇

右両名指定代理人

海老原明

右当事者間の名古屋高等裁判所平成四年(行コ)第二七号法人税更正処分取消等請求事件について、同裁判所が平成六年三月一八日言い渡した判決に対し、上告人らから全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人石川貞行、同前川弘美の上告理由第一点及び第二点について

原審の適法に確定した事実関係の下においては、本件寄付金につき法人税法三七条三項二号又は三号の適用はなく、また、これらに準じて扱うことはできないとした原審の判断は、正当として是認することができる。上告理由第一点の所論は、帰するところ、原審の説示した右判断と異なる見解を前提とするものと解さざるを得ず、右の所論につき重ねて説示をしないことをとらえて原判決に審理不尽、理由不備の違法があるとはいえない。原判決にその他所論の違法はない。論旨は、独自の見解に基づき、又は原判決を正解しないでこれを論難するものであって、採用することができない。

同第三点について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものであって、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 福田博 裁判官 大西勝也 裁判官 根岸重治 裁判官 河合伸一)

(平成六年(行ツ)第九八号 上告人 ノーリツ自転車株式会社 外一名)

上告代理人石川貞行、同前川弘美の上告理由

第一点

原判決には、寄付金の損金算入限度額(被告らの主張1(三)(7)について、審理不尽、理由不備の違法がある。

原判決は、「法律の明文(法人税法三七条三項二号)により授権された大蔵大臣が定める政令によるものであるから、租税法律主義に違反するものでもなく、国民主権の原理にも反するものではないというべきである」とする。

しかしながら、上告人が原審で主張したのは(上告人提出の平成五年六月二日付準備書面第二)、法人税法三七条三項二号にいう「大蔵大臣の指定」は、実質的に指定がなされるべき要件を充足しているかどうかを判断した上で、損金算入の可否、範囲が決せられるべきこと、そして、定質的に指定がなされる要件を充足しているかどうかは司法が判断すべき事項であること、である。

原判決は、単に政令が法律の明文により授権されたことを「理由」欄に掲げているのみであるが、上告人がその点が問題にしているわけではない。

原判決は、上告人の主張に何ら答えることなく、全く的はずれな事項を「理由」欄に付加しているのみであり、これは、審理不尽、理由不備の違法がある。

大蔵大臣が定める政令が法律の明文(法人税法三七条三項二号)により授権されていることは、規定上明確なことであり、上告人が規定上明確なことを争うものではない。

上告人が主張するのは、法律の明文による授権があっても、損金算入の可否、範囲の問題は国民の権利にきわめて大きな影響を及ぼす問題である以上、司法によるチェックが働くべき問題であるという点である。したがって本件においても実質的に「大蔵大臣の指定」がなされるべき要件を充足しているかどうかが司法において判断されるべきものである。

第二点

原判決は、上告会社が昭和五八年一月一九日ノーリツ財団の設立代表者に対してなした本件寄付金(二億円)について、法人税法三七条三項二号、三号を準用して全額損金として扱うことを認めなかった点で、その法令の解釈を誤ったものであり、判決に影響を及ぼすこと明らかなる法令の違背がある。

原判決は、指定寄付金(同法三七条三項二号)について「特に公益性、緊急性が高いものとして教育、社会福祉、文化財保存等の事業が指定されるのであるから、寄付金の支出によって失われる租税が、究極においては、公益的目的に支出されたのと同様の結果となるので、政策的に公益度の高い事業を推進するため、これらの事業に対する寄付金の全額を損金に算入することが認められたものと解される」とし、特定公益増進法人への寄付金(同項三号)について「特定公益増進法人の業務目的の公益性が高いものとして、一定の範囲内で損金算入の特例が設けられたものと解することができる」とする。

また、原判決は、「寄付金は直接の対価のない給付で、本来の法人の事業活動とは関係がなく、むしろ利益処分としての性質を多分に有しているが、直接の対価がなくても、広い意味で事業の目的に関連を有する場合があることも考えられるところ、寄付金の性格上、事業に関連があるかどうかの判断は困難であるので、実務上、一定の形式的基準によって判断することが便宜であり、合理的である」とする。

しかしながら、「一定の形式的基準」といっても、そこには行政庁の判断があるのであり、損金算入の制限のあり方が憲法一四条一項の定める平等原則に照らし、平等であることは当然の要請である。そして、本件寄付金は当時設立準備中の公益法人たる財団法人に対してなされたものであり、右財団の目的は、経済的に恵まれない低所得者の家庭にありながら向学心に燃える生徒に対する奨学金の給付、地域社会文化の向上のための文化講座研究会、見学会等の文化活動をすることにあるのである。そのような公益法人に対する寄付が全額損金と認められないのは、国や地方公共団体に対する寄付が全額損金として認められるのと比して著しく不平等であり、法人税法三七条三項二、三号を準用して全額損金として認められるべきである。

なお、原判決は、「法人税の税率が高くなるにつれて、寄付金を損金に算入すべきことを無制限に認めると寄付金を支出してもその金額が法人の出捐とはならず、その大部分は実質的には国庫へ納付すべき法人税によって負担する結果となることとなり、不合理であること」を、寄付金の損金算入について一定限度額のものについてのみ認めることとした一つの理由とする。

この考え方は、寄付金の支出が損金となるかどうかの判断の前に法人税が決まるわけではないにもかかわらず、その判断の前に実質的には国庫へ納付すべき法人税」があるかのごとき立場を表明するものである。これは初めに課税ありきの考え方であり、公正公平な立場に原判決が立っていないことを示すものである。

第三点

原判決は、雑収入の計上もれ(被告らの主張1(三)(4)について経験則ないし採証法則の適用に誤りがあり、審理不尽の違法がある。

原判決は、トヨタ自動車の株式は、本件土地上の借地権及び本件建物の譲渡の対価として上告人桑田に譲渡されたものであると認められるとする。

そして、トヨタ自動車の株式については、昭和五七年二月二日上告人会社から上告人桑田に二万株、同年一二月九日上告人会社から加藤茂ほか一四名に一万五〇〇〇株、昭和五八年二月一日加藤茂ほか一四名から上告人桑田に一万五〇〇〇株、同日上告人会社から上告人桑田に五七五〇株、それぞれ名義の書換えが行なわれ、この間、昭和五七年七月一日無償増資により原告桑田の名義で二〇〇〇株が取得され、結局、本件株式四万二七五〇株は、昭和五八年一一月以前に上告人桑田の名義となっていたと認定する。

しかしながら、経験則上、本件土地上の借地権及び本件建物の譲渡の対価であるならば、株式の名義変更は一括してなされるか、当初の約定に基づいて規則的になされるはずである。

また、上告人桑田は、借地権及び本件建物の対価としてトヨタ自動車株式の譲渡当時の時価五七二八万五〇〇〇円を受け、その譲渡所得課税を受け、その後にノーリツ財団にその株式を寄付するという行為をなすことはありえないものである。上告人桑田は、トヨタ自動車株式を上告人ノーリツ自転車株式会社から直接ノーリツ財団へ寄付する考えであったものである。上告人ノーリツ自転車株式会社から上告人桑田へ、そして上告人桑田からノーリツ財団へと譲渡するならば多額の譲渡所得課税があるのであるから、課税は最小限としたい経済人としてそのようなことをすることは経験則上考えられないことである。

さらに、そもそも借地権及び本件建物は、南ケ丘マンションと交換されているのである(上告人提出の平成五年三月二九日付準備書面)。

トヨタ自動車の株式は、実質的に上告人ノーリツ自転車株式会社からノーリツ財団へ寄付されており、その間に上告人桑田において何らかを利得したものではなく、実質的に所得があったわけではない。

したがって、原判決の認定は、経験則ないし採証法則に著しく反するものである。

以上

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